桜庭一樹氏の
私の男を読みました。
桜庭氏の作品は赤朽葉家の伝説以来2作品目です。
この作品がかなり面白かったので、期待できそうです。しかも第138回の直木賞受賞作らしいです。
内容ですが、読み進めていくと親娘のかなり奇妙な関係に気づくと共に、それが余りにも特別な関係であることが分かってきます。
簡単な関係を整理してから感想を書きたいと思いますが、ずいぶんネタバレになるので、未読の方はご注意を。
主人公は腐野花とその父親の淳悟ですが、淳悟は養父で花が幼い時に災害で両親を亡くしたことにより、遠い親戚であったことから引き取ることになったと説明されます。
その二人が男と女の関係になっています。 親子なのに。まあ、無きにしも非ずかなという感じもしますが。
そんな花が結婚するところから物語が始まります。
物語が進むに連れて、2人がどうやら殺人を犯していること。
血の繋がった親子であることが分かってきます。
本当の親子が何でそんな関係になってしまっているのか?
はっきり言ってグロすぎて、読んでいて気分が悪かったです。
こんなの別に読みたくないし興味がないので。
しかし、直木賞にも輝いているし、評判がいいということは 何かあるのだと思い、がんばって最後まで読むことにしました。
後半で語られる2人の最初の出会いのきっかけとなる災害から逃げる場面や 避難所での様子、その後の淳悟が花を引き取る様子はとても心に響いてきます。
なんといっても花がそれぞれの出来事にどう感じて、何を考えているのかが とても切なく、そして染み入るように伝わってきます。
どこか家族になじめずにひっそりと暮らしていた花が、淳悟と出会うことにより、本能なのか何なのか、求めていたものに出会ったと確信する姿が印象的です。
抱っこされて安心して寝てしまうシーンでは、妹が父親に抱かれて手足を だらっと垂らして安心して寝ていた姿を理解できず不思議な生き物としか見られていなかったのが、その気持ちが理解できる瞬間などは感動しました。
私には娘がいるので、本当の父親に対してはこれほどの信頼と無条件の愛を抱いていてくれるのかと思うとうれしくなります。
果たして、一方、淳悟の方ですが淳悟から主人公として思っていることや 感情が語られることはありません。
唯一、会話の中で何度か語られるぐらいでしょうか?
母親はどういう人だったかと聞かれ「ひどい人だった」とか、 震災後に花をどうするか話に行ったときに「お前を取られちゃうのかな?」と 不安をもらしたり、引越しを手伝ってくれた友人に花のことを天使みたいに可愛いなといわれたときに「いや、悪魔だよ」と既に普通の親子ではいられないことを暗示させる会話があったりする程度だと思います。
そのため、読み終わった後も、あってはならない親子の関係を築くイニシアティブを取った淳悟の気持ちが理解できません。
まあ、あってはならない関係なので、どう語ったところで正当化されるものではないと思うので、そこに深入りしてもしょうがないのかもしれませんが。
正当化できる可能性としては本当の親子とは知らずに知り合い、そういう関係になってしまったが、その後、本当の親子と気づき、苦悩するというパターンでしょうが、本作品では完全に確信犯です。
それだからこそ、人間くさい、いや、動物や獣の本能の為せる業なのようで、どこか恐ろしい感じを受けるのかもしれませんし、否定しきれないのかもしれません。
この物語のケースでは、淳悟自身が複雑な家庭で育つことになり、それが原因の一つのようにも感じられますが、それだけでは説明しきれない何かが横たわっているのだと感じます。
テーマ自体はグロくて、決して気持ちのいい物語ではありませんでしたが、先述の通り、娘の父親を思う気持ちというか、本能の描写には心を動かされました。
また、これほどまでにお互いを大切に思いあっている二人が、結婚を機に分かれる決断をするのは相当辛かったのではないかと思います。
でもその結婚のシーンは最初のシーンなので、2人の絆の深さが あまり理解できておらず、重たく捉えることが出来ませんでした。
骨になるまで淳悟と一緒にいるといっていた花がどうして結婚を決断したのか? もっと知りたいところですが。
あと、その後の淳悟はふるさとの町に戻ってますかね?この海で死ぬんだと思っていたとも語っていましたし。
赤朽葉...でもそうでしたが、桜庭氏の文章や感情の描写には心を動かされます。
語り方や構成なんかがとても秀逸だと思います。
これらの作品以外にも評判のよいものがあれば読んでみたいと思います。
最後に、物語の中では語られることのない花の母親ですが、 これって、震災にあったときに育てられていた家庭の母親ですよね?
淳悟が両親をなくしてこの町にいたときに、親戚である彼女と間違いが 起こったのだと思っています。
はっきりとは語られていませんが、そんなニュアンスの会話ですよね...
2013/09/02
採点:★★★★☆
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