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「読書の時間」は備忘録として読書の感想や書評をまとめたサイトです。

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カラスの親指道尾秀介

道尾秀介氏の龍神の雨を読みました。

最近めっきり嵌っている道尾秀介作品です。
最初に代表作というか初期の頃の作品のシャドーと向日葵の咲かない夏を読んで、衝撃を受け、それ以降、氏の作品をどんどん読み始めているのですが、イマイチ当たりの作品に出会っていません。


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出張中に読み始めたのですが、嵌ってしまい、あっという間に読んでしまいました。
週末に観光もせず、ホテルと喫茶店でゆっくりしながら読み切りました。

主人公の蓮と妹の楓、似たような境遇の兄弟の圭介と辰也の4人を中心に物語が進んで行きます。

彼らの環境は本当の両親は他界してしまっていて、血の繋がらない父親や母親の再婚相手との生活を強いられており、その生活は決して幸せとは見えません。

このようになってしまった4人の過去とこの状況を何とか打破しようとする姿。相手の事を思っているのに、どうしても心が通わない歯がゆい状況など、主人公達の感じ方や心の動きなどが良く伝わってきます。

今までの作品がどちらかというとトリックや謎解きに重点を置いたような作品だったように感じるのに対して、今回は人間自体や感情、気持ちの動きなどを描く事に重点が置かれているような気がしました。特に2人の兄弟の弟の辰也の心の動き方が手に取るように分かります。
不安な子供の気持ちや、相手の気持ちなんかも子供なりに結構正確に理解できているのにどうしていいのか分からずに困ってしまっている状態など、なんだか自分の子供の頃を思い出させてくれる気がしました。

道尾氏のインタビューなどを読むと、ミステリー小説が書きたいのではなくて、小説を通して人間を描きたいんだ。そのための手段がミステリーなんだと言っていたのを強く覚えているのですが、まさにこの作品はそのような作品に仕上がっていると思いました。
ただ、ミステリーとしての仕掛けや驚き、醍醐味には欠ける気がしましたが...

龍については、象徴としての意味や心の動きが見せる姿だったりと読むこともできるのでしょうが、主人公達にその姿が見えてしまう当たりに文学的な意味合いの強まった作品なんだなと感じました。

今までの作品で暗い物もありましたが、どこか軽さのような物もあったのですが、今回の作品はどっしりとしていて、人間を心底描ききった作品だなと感じました。
今までの作品は暗い物語のワリには軽いストーリー新興と救いのないラストだった一方、今作では重厚な物語と人間描写で重たい雰囲気で物語は進みますが、最後に救いがあるというか無いというか、どっちにとっていいのか難しいけれども何となく心が温まるようなじーんっとくるような感じが残りました。


---------------- 以下、ネタバレ注意 --------------------


ネタバレになりますが、蓮達の継父が母親の死によるショックから荒れ、暴力を振るっていたことを公開し、職探しを始めていたという事実は救いのようでもありますが、取り返しが付かないことをしてしまった、しようとしてしまった蓮にとってはそれを知ってしまったら悔やんでも悔やみきれないでしょう。

どっちにでも取れるような物語というところで上手いと感じました。
結局、正しい答えや解釈は無いと思いますが、物語を通してそのような状況を作り出し、自然と考えさせるというか提起するというというところが上手いなと。

もっと単純にミステリーのトリックだけを楽しみたい気もしますが、こういう作品も悪くありませんね。

2013/06/30


採点:★★★★









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