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デフレの正体藻谷浩介

藻谷浩介氏のデフレの正体を読みました。


藻谷氏の事は存じ上げていないのですが、昨今、日本経済の問題として根強く残っているデフレについての本らしく、読んでみようと。


デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

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近年、日本の経済の問題として取りだたされているデフレについて、その原因や対策についての考察が紹介されています。

一般に言われている地方間の格差について、実際の数字を元に、地方と都市部の格差は開いていないことを説明してくれています。
これに関して、マスコミや一部の指揮者と言われる人たちは数字や現実を確認することなく、イメージや雰囲気で地域間格差が開いていて、しかもそれが問題で昨今の長く出口の見えないデフレが起きていると説明していることに苦言を呈しています。
まさにその通りで、結果から原因を分析するプロセスの中で、実際の数字や因果関係をきちんと検証することなく、何となく説明が付きそうな事柄で理由付けをしているという事に対して正面からの反論というのは始めて見ました。私としても同じ印象でしたので少しすっきりとしました。

また、世の中の不景気というかデフレと言うか、経済成長の閉塞感の大きな原因のひとつに労働人口の減少と高齢化が上げられています。
その原因の分析については賛成であり、これだけが原因とは言えないでしょうが大きな構造的な問題のひとつであると言うことは間違いないと思います。しかも、わざわざ数字を検証して、人口の変化と経済指標の変化の因果関係を確認しています。


ただ、そもそも最近の閉塞感やデフレを問題のように言われていますが、私たちの年代は幼少時にバブルを経験しており、時間としては何もないため、最近の閉塞感を問題のように言われても、好景気(やバブル)の良さを知らないために、これが当たり前と捉えているんだと思います。

デフレだって個人としては給料の大幅な数十%のベースアップなんか望めず、毎年のわずかな昇給の中ではデフレの方がよっぽど嬉しいんですけど...まあ、そうすると企業の収入が減ってしまい、給料はまた上がらないので、そのデフレスパイラルに入っていくという事なんでしょうが...

しかし、これだけビジネスがグローバルになっている中で、日本人の人件費は世界でトップレベルです。しかし、全ての人間がグローバルに競争力があるのかというと必ずしもそうとは言えません。なのに、平均の人件費は圧倒的に高いのです。LCCの人件費は毎年数十%上がる一方、日本の中の人件費が下がっていくことも必然だと思うのですが...しかも、円高で相対的に30%以上も人件費が上がってしまったとなった状態ではなおさらだと。


本書の中では、生産人口が下がってしまう中でのGDPや付加価値が下がってしまうことへの対応策として生産性をアップするということを上げている識者のことを的外れと批判しています。労務費or労働時間当たりの付加価値生産率は維持できても付加価値額自体は減ってしまい、結局経済の縮小は止めることが出来ないとの論旨です。

生産性をアップすれば経済縮小を止められるという人たちを数式や数字の意味を理解できていない人たちの戯言だと切り捨てているのですが、でも絶対額が減ってしまうのは値段を下げてしまうからでしょう。売価を維持できれば付加価値の絶対額は減らすことなく維持することが出来ると思うのですが...省人化や自動化により生産性(率)を維持したとしても絶対額が下がってしまっては意味が無い、そんなことを言っている人たちはアポだとの避難がされています。でも、それは難癖としか見えません。絶対額を維持するだけの生産性の率の向上を目指せば問題ないと思います。まあ、実際にそんな生産性のアップの出来る改善やイノベーションが可能かどうかは別で、実際、不可能だと思いますが...

そもそも、それよりも大切な問題として生産性の向上で効率よく生産しても、国内の内需は維持できないのだとの議論も展開されています。確かにその通りですが、それは別の話で、でも輸出が大きく伸びて国内にお金が落ちればまずは国内への付加価値は維持することが出来ると思うのですが、その辺りは明確に説明されていませんでした。
この辺りは内需で回す分のインフレを含めた物価と人件費の高騰と、海外への輸出品の競争力のための人件費や材料費の抑制などのバランスが必要になってくるところであり、どこを目指すのが最もよいのか分かりません...その辺を何かしらのデータを元に説明してもらえればとてもよかったと思うのですが...気付きもされていない感じでした。

藻谷氏の本書を読んで、全体に感じたことは経済についての知識や洞察、考察はなるほど〜と思わされるような鋭いものも多々あるのですが、ビジネスや物事の実行という面ではかなり弱いなぁと感じました。

例えば、高齢者の貯蓄は将来の医療費のための貯蓄という面が強く、そういった面では、将来に必要な医療費の先買い・コールオプションであり、流動性のある貯蓄として扱うのは間違いであるだろうという提案なんかはとても面白く、なるほどな〜と思います。
実際に貯蓄は貯蓄ですけど、そういった面からは流動性は非常に低いと言わざるを得ず、これらを一概に貯蓄として扱って論じるのは間違いだろうと思います。みんなそういうことは理解できるんでしょうけど、しかし、マクロ経済学の中でそういった扱い方が無いと、見えなくなってしまって、ただ、貯蓄として論じてしまうんですねぇ〜。


最後の方では景気回復・デフレ脱却の対策として、@高齢者から若者への資産の移行、A女性の就労化・経営参加、B外国人観光客や短期滞在の増加を上げています。
まあ、最もな対策だと思いますが、自信が様々な対策を批判していた姿勢からすれば全然十分ではなく、自己矛盾を起こしています。いろいろな対策に対して、それでは焼け石に水で、根本の問題を解決するに至らないと言う趣旨の批判をかなり痛烈に繰り返しているのですが、ご自身のこれらの対策については、絶対金額や工数としては全く足りないにもかかわらず、費用対効果で見れば効率がいい、何もしないよりはましだと、苦しい言い訳を堂々と言い切ってしまっています。

それまでの、他人に対する厳しい姿勢を見ていると、自分にはどれだけ甘いんだ!とちょっと気分が悪かったです。

あと、やはり、この閉塞感からの脱却と言う中で、政府や識者の戦略の間違いや不十分さ、的外れさをかなり批判しているのですが、まあ、それもそんなに的外れという分けでは無く、氏の提案している対策案と似たり寄ったりだと思います。
それよりも、効果がイマイチ表れないのは、その戦略なり方針がどれだけしっかりと実施・実行されているかというところの問題を検討する必要があると思います。特に、お役所仕事ではその傾向が大きいのでしょうから、その辺の考察が必要になります。もちろん、物の見方として氏が指摘しているように数字や事実での裏付けが必要で、そうすることで対策を考えることが出来るでしょうから。

2013/10/28


採点:★★★☆☆









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